こなひき太郎のkindle日記

人文社会系のkindle書籍をレビューします。

検証『検証・安保法案』(4)―柳澤協二「『国際秩序維持』に関する法制を中心に」

 予定したよりも時間がかかってしまいましたが、検証『安保法案』の最終回です。今回は「安保関連法案の論点」から元防衛省防衛研究所長である柳澤協二氏の「『国際秩序維持』に関する法制を中心に」をとりあげます。

 

検証・安保法案:どこが憲法違反か
 

 

konahiki-taro.hatenablog.jp

 

安保法制とアメリカ

 今回の安保関連法案が、アメリカに対する貢献を目的としたものであるとの評価は、これまでもなされてきました。柳澤氏もこのことを認めます。彼によれば、アメリカは、中国の台頭、対テロ戦争による厭戦的な国内世論と大きな財政赤字という国内外の事情により、アジア地域の安全保障に対してこれまで以上の日本の貢献を求めざるをえない状況にあります。

 しかし、アメリカの方針はまだ十分に定まったものではなく、内容がわからないなかで無条件的な奉仕をしようとする同盟関係は、危険なものです。また、地球規模の米国支援を行うことは自衛隊のキャパシティを超えており、また長期にわたり軍事行動をしていない日本にとって、効率的な国際貢献の仕方でもありません。よって、政府の方針を政策として支持できるものではないと筆者は評価します。

 柳澤氏の述べている主張自体は目新しいものではありませんが、専門家による説明は説得力があります。

 

安保法案の影にはイスラーム国がある?

 戦闘行為の行われている地域での自衛隊の活動は、今回の法案でも禁止されています。しかし、戦闘行為は「国際的な武力紛争の一環として行われる」ものを指すと定義されています。筆者は、この定義に従えば、国家との戦闘行為は禁止されているものの、政府がテロリスト集団であると認定しているイスラーム国との戦闘は、法律上禁止されていないことになってしまうと主張します。

 戦闘地域と隣接した場所でも活動が行えるとする今回の法案政府がイスラーム国との戦闘を意図しているかは別として、このような法律が存在してしまうことは、極めて危険であると言えるでしょう。

 

自衛隊はまずアフガニスタンに派遣される?

 さて、今回の一連の法改正案にはPKO法の改正も含まれています。これは、自衛隊の国際支援を、国連が管轄するPKO以外にも広げ、また治安維持を目的とした活動も可能にするとともに、武器の使用権限を拡大するものです。

 筆者は、この法改正により可能となった活動を自衛隊が活動しうる場所があるとすれば、アメリカとタリバン穏健派のあいだで和平交渉の続くアフガニスタンであると主張します。タリバンのなかには過激なグループも存在し、治安維持のための活動が必要になるからです。

 実際にアフガニスタン自衛隊が派遣され、タリバンの過激派と戦闘を行う事態が発生するかはわかりませんが、法的にそれが可能になってしまうこと、平和主義という日本の原則を揺るがすものでしょう。対テロ戦争は21世紀におけるもっとも代表的な戦争の形態です。「戦争法案」というレッテル貼りは好きではありませんが、まったく根拠のないものだとは言えないのかもしれません。

 

 今回まで4回にわたり、「検証『検証・安保法案』」と題して『検証・安保法案』の各記事についてレビューを行ってきました。検証と言えるほど精緻な記事は書けませんでしたが、いかがでしたでしょうか。

 今後も、独立した論文が収録されている本を取り上げた際には、同様の形でそれぞれ紹介していきたいと思います。