こなひき太郎のkindle日記

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検証『検証・安保法案』(2)―長谷部恭男・大森政輔対談「安保法案が含む憲法上の諸論点」

 今日は憲法学者長谷部恭男先生と、元内閣法制局長官の大森政輔氏の対談をレビューします。

 

検証・安保法案:どこが憲法違反か
 

 

konahiki-taro.hatenablog.jp

 

 個別的自衛権は先天的?

 大森氏によると、個別的自衛権集団的自衛権は、本質的に差異のあるものです。個別的自衛権は「独立国家ならば固有かつ先天的に有する自己保全のための自然的権能に基づくもの」であるのに対して、集団的自衛権は「その権利の根拠・内容は他国との間の同盟その他の関係の密接性により後天的に発生し付与されるもの」であると言うのです。これは、集団的自衛権を「自然権」とする俗説を否定する内容のものですが、個別的自衛権が先天的な自然的権能に基づくものだとするのは、法理学上妥当なのでしょうか。

 自然権という考え方は古代まで遡ることのできるものですが、私たちが用いている近代的な自然権の概念は、ロックらによって、社会契約説とともに作られたものです。私たちが社会契約を結ぶためには、それ以前に何らかの権利を持っていなくてはいけません。そのために、国家や社会がまだ成立していない状態(自然状態)においても人が保持している権利、すなわち自然権が重視されたのです。

 さて、言うまでもなく、国家は人為的に作られたものです。集団的自衛権自然権であるとする俗説が妥当でないものであることは言うまでもありませんが、そもそも先天的なものではない独立国家が、先天的に何らかの権能を有するということがありうるのでしょうか。個別的自衛権集団的自衛権との違いを先天性に求める見解は、説得力がないと言うほかありません。

 

固有の権利であるから行使できる?

 さらに、個別的自衛権自然権であるから行使できる、という議論にも説得力がありません。そもそも、日本が集団的自衛権を有することは、国際法上固有の権利であると認められているはずです。しかし、保持している権利を行使しないことを国内法で決めることは何ら矛盾ではありません。

 同様に、自然権を行使しないことも自由です。たとえば、あるものについて財産権を有している人が、それを誰かにプレゼントすることは、何ら矛盾ではないでしょう。固有の権利であるから、もしくは自然権であるから行使できる、という論理はおかしなものです。個別的自衛権集団的自衛権の違いを「先天性」や「自然性」に求める方法は、まったく成功していないと思います。

 

一体化論については必読

 さて、ここまで個別的自衛権の正当化についての比較的細かい論点について書いてきましたが、大森氏は元法制局長官であり、日本の安全保障法制に関する実務を担ってきた人物です。この対談では、各所で彼の法制局での経験が語られており、全体としてたいへん興味深いものでした。

 特に、大森氏自身が基準を作った他国の武力行使との一体化問題についての部分は必読です。一体化論が外務省によって批判されてきたこと、一体化の有無を判断できるようにするためには、戦闘地域と非戦闘地域のあいだに緩衝地帯が必要であることなど、実務家ならではの指摘が多く、読む価値があると思います。

 

 青井未帆「安保関連法案の論点―『日本の平和と安全』に関する法制を中心に」に続きます。