私の読書遍歴(4)―大学時代篇
高校時代篇のつづきです。
高校時代はけっこう幅広いジャンルの本を読んでいたのですが、大学時代は政治哲学というジャンルにとらわれすぎて、あまり幅広い読書ができませんでした。とはいっても、大学で勉強することで専門的な著作も読めるようになってきたので、悪いことばかりではなかったのかもしれません。
1.ウィル・キムリッカ『現代政治理論』(千葉眞・岡崎晴樹訳、2005年、日本経済評論社)
- 作者: W.キムリッカ,Will Kymlicka,千葉眞,岡崎晴輝
- 出版社/メーカー: 日本経済評論社
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 60回
- この商品を含むブログ (29件) を見る
多文化主義の理論家として知られる著者による、政治哲学の入門書です。長大で必ずしもとっつきやすい本ではないのですが、20世紀後半の英語圏における正義論の展開についてかなり網羅的にまとめられており、政治哲学の勉強を続けるうえで財産になりました。
2.児玉聡『功利と直観』(2010年、勁草書房)
功利主義と直観主義という近代道徳哲学の対立と、功利主義と義務論という現代倫理学の対立との思想史的関係を明らかにしようとした英米思想史の好著です。児玉聡先生はわかりやすい入門書を書く名手で、ほかにもちくま新書から『功利主義入門』 という倫理学の入門書を出しています。サンデル講義を聞いてなんとなく功利主義に悪いイメージを持っている方は、ぜひ読んでみてください。
3.安藤馨『統治と功利』(2007年、勁草書房)
そして、功利主義に入門したい人に絶対におすすめできないのがこの本です。功利主義を統治の理論として解釈しようとする名著なのですが、とにかく難解で、今でも十分理解できているか自信がありません。とはいえ、日本においてもっとも優れた現代功利主義の理論書であることは論をまたないでしょう。
4.ロック『統治二論』(加藤節訳、2010年、岩波文庫)
大学時代に読んだ古典のなかで 、もっとも印象に残っているのは、『統治二論』です。前篇(「統治について」)は聖書の解釈がつづいて退屈なのですが、後編(「政治的統治について」=『市民政府論』)は、近代社会契約説上の名著であるだけでなく、人権について考えるうえで必読だと思います。
5.G.A.コーエン『自己所有権・自由・平等』(松井暁・中村宗之訳、2005年、青木書店)
- 作者: G.A.コーエン,Gerald Allan Cohen,松井暁,中村宗之
- 出版社/メーカー: 青木書店
- 発売日: 2005/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
ロックは、自分自身の身体に対する所有権(自己所有権)を前提として、労働によって自己所有権が拡大することにより、財産への所有権が獲得されるのだと説明しました。彼の所有権論は、リバタリアンとして知られた現代の政治哲学者ロバート・ノージックにも批判的に引き継がれています。
コーエンは、ロックの展開したような労働によって所有権が発生するという考えが、マルクス主義のなかにも見られることを指摘したうえで、自己所有権という考え方を批判します。「労働をして得たものは自分のものだ」という考え方は、リバタリアンやマルキストという特殊な主張を持っている人たちだけでなく、むしろ普通の人が素朴に抱いているものだと思います。そのような考え方に疑問を投げかけることは、政治哲学のひとつの役割であるでしょう。
今日まで、4回にわけて「私の読書遍歴」を書いてきました。どんな人が書いているのかわからないと読みにくいかもしれないと考えて企画したのですが、いかがだったでしょうか。自分語りをしているようで気持ち悪いかもしれませんが、ブログとは本来そういうものだということで、お許しいただければと思います。